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わが家の柴犬、タケルとラン

平成15年、家を新築した機会に犬を飼うことにした。
犬を飼うには、まずその母親を見なければならないとの指摘があった。
人間の話であったら社会問題となる発言と感じながら紹介されたブリーダーの所へ行った。
そこで勧められた犬は1.5カ月の柴犬である。
知人に指摘されたことを思い出し、早速母親に会うことにした。
母親の名前は民(タミ)で優しそうな顔立ちで、笑う犬として知られている。父親にも会ったが、凛とした雰囲気が漂っていた。
この両親の子供なら問題ないだろうと思い、その場で引き取り帰路についた。
名前を日本武尊(ヤマトタケルノミコト)由来のタケルとし、わが家での生活が始まった。
人間と犬との共同生活はお互い初めてのことで、ある程度の事は覚悟していたが、誤算も生じた。
タケルは身近の物をかみたがる。
ソファやベットの脚ばかりでなく、新築の柱や壁まで傷つけてしまう。
厳しく怒ると2度と悪さをしなくなるが、こちらの精神的ダメージは小さくはなかった。
たった1度しか履いていない娘の大事な靴をかみ砕いた事件もあった。
娘はタケルをひどく叱っていたが、私は娘に「靴を下駄箱に入れないのも悪い」とタケルの味方についた。
結局、私がタケルに代わって弁償することで、娘の怒りが収まったのである。

犬の世界では、塾通いや勉強も必要なく、少々できは悪くても愛嬌があればそれで十分であり、育てるのに精神的ストレスはない。
ただ、番犬であれば良いと思っていた。
しかしながら、タケルを飼って驚いたことは、家の中の雰囲気が一変した事である。
女房は時折格闘しながら遊んでいるし、娘は「タケルを拉致する」と言って自分の部屋に連れ込んでいる。
タケルを話題にすることで、家族の会話が増える。
また、嫌な事やつらい事があっても、タケルがそばにいてくれるだけで忘れさせてくれる。
やはり家族の一員なのであろう。
しかし、平穏無事なタケルの生活がライバルの出現により様変わりすることになる。
平成16年6月タケルが8カ月の時である。
Aさんからの電話で、雌の黒柴を引き取ってほしいとの依頼があった。
その犬は静岡県の富士川の河原で捨てられ、1カ月間河原で生活していたらしい。
そこは犬の散歩コースで、心ある愛犬家たちが餌を与えていたため、何とか生きながらえていたようである。
Aさんはすでに2匹の犬を飼っていて、さらに1匹飼うのは難しいため、誰かにお願いしている所であった。
その黒柴の今後のことを考えるとあまりにも不憫に感じられたので、不妊の手術を済ませることを条件として引き取ることにした。
早速、名前をどうするかと聞かれ、気高く美しい花のイメージがわが家に相応しい蘭(ラン)とした。
6月下旬の日曜日、ランが静岡からわが家にやって来た。
ランは居間のソファの上で体を硬直させ、身動きしない。
きっと知らない所に連れて来られて、恐怖感で一杯なのであろう。
タケルは雌犬が来たことで、嬉しそうな表情をしている。
1時間位経って、Aさん達はランを後にしたが、ランは緊張しているためか体はこわばり、表情もなくまるで能面のようであった。
その後は、散歩と食事の世話をする私にだけは懐いてきたが、他の家族には警戒心を失っていないようである。
ランの名前を呼んでも振り向きはするが、近寄ろうとはしない。
その代わりにタケルが近寄ってきてわれわれに可愛がってほしいとアピールする。
このようにランがわが家に来た事で、タケルは甘えることが多くなった。
それから8年経った今の状況であるが、2匹はラブラブの関係にありながら、タケルは私の後を追う事が多く、ストーカー犬と呼ばれている。
一方、ランは私に寄り添うことが多いので女房から側室犬と言われている。
こういった奇妙な調和を保ちながら平穏な日々を過ごしていた所、今年の5月下旬に犬達の認識を一変させる事件が起こったのである。
午前2時頃突然ランが唸り声を上げる。
敵意に満ちた声だ。間髪を入れず、タケルが反応する。
風呂場そばの洗面所まで突進し、吠え出す。
ランも一緒になって吠えまくり、2匹とも風呂場に向かって戦闘モードであった。
女房が見回りに行った時にも吠えたり、唸ったりしていたが、何が起こっていたのかは理解できなかった。
後日、隣家の人が庭に置かれた細長いスチール2本を発見した。
その後、その2本がわが家の風呂場の窓から抜き取られた格子であることが判明したため、すぐに警察に通報した。
警察に事の経緯を話した所、泥棒は犬が吠えると家人に気付かれるため侵入を諦めることが多く、また家の中で泥棒に遭遇した場合に危害を受ける場合もあるなどを聞かされた。
この事件では、愛犬たちの闘争本能により、泥棒から生命と財産が守られたことになる。
もはやこの2匹は家と家人を守り続ける戦士に成長していたのである。

真部 秀治